経絡の本質と気の流れ


(Ⅲ)真皮結合織内を流れるBPの本質は何か


 BPは、表皮に置いた電極を通じてかけた3Vの負荷電圧によって、礎質液内のNa+、Cl-、Mg2+等の諸イオンに移動が生じ、,それによって生起した電流あるいは電気現象なのであろうか。前著でもふれたが、ある研究では、生体内の体液中のイオンの移動速度は20KCのACの変化に追い付きうる程度のものであるという。これに対しBPの速さは、手首の不関電極~手の指尖の井穴の関電極間が約20~30cm、手首の不関電極~足の指尖の井穴の関電極間が約150~180cmの距離を、0.1~1μsecで通過する速い現象である。周波数にすれば1MC~10MCで+、-が交替する速い変化である。従って20KC程度の+、-の交替に追い付きうるイオンの移動速度では、BPの現象は説明できない。
 また、電気化学等の成書にみられる無限稀釈液(水温25℃)の中でのNa+、Cl-、Mg2+等のイオン移動度は表Iの如くである。この表Iの各イオンの移動度を、手指尖の井穴の関電極~手首の不関電極間の距離を20cm、足指尖の井穴の関電極~手首の不関電極間の距離を150cm、両電極間にかける電圧を3Vとして計算してみると、表Ⅱの如くなる。Na+の移動速度は、手井穴では0.000078m/secであり、足井穴では0.0000103cm/secである。これは1μsecで20~150cm走るBPの速さに較べて、あまり遅すぎる。上の無限稀釈液と生体の体液の化学的条件とはあまり変わらず、各イオンの移動度は,生体内体液中では、上の稀釈放の中と同等もしくは遅いと言われている(7)。
 以上からBPの電気現象は、礎質の中のイオンの移動によって生ずるものではないらしいことがわかる。


ところで銅、鉄等の導体の中での電子の移動速度はどうかというと、例えば銅の針金(480アンペア/cm2の電流密度をもつ)の中での電子の移動速度は、1cm流れるのに28秒かかる。ところがこの銅線の電場の中で生ずる電気変化がこの銅線に沿うて通過する速さは、光の速さとほぼ同じである。これは、長い水パイプに水を満たし、片側に圧をかけると、この圧はこのパイプの中を早く伝わってパイプの他の側へ達する。しかしパイプの中での水の動きは非常に遅いのと同じである(8)。
 上の銅線の中の電子の動き、水パイプの中の水の動きは非常に遅いのに、銅線という電場の中での電気的変化の動き、水の中の圧の動きは非常に速い。これと同じことが、真皮結合織の中のBPの流れ(あるいはAP、IQ、TC)について言えるのではなかろうか。即ち礎質液中の各イオンの移動速度は、Na+が毎秒0.0000103~0.000078cmという非常に遅い速度であるが、BPの速さが20~150cmを0.1~1μsec(マイクロ秒)で通過するというように速いのは、BPの電気現象の速さは礎質中のイオン移動の速さでなく、礎質を一種の電場として、電気的変化がその中を通過する速度であると考えればよい訳である。
 ではこのような電場の中での速い電気的変化は、どうして生ずるのであろうか。種々の仮説があるようであるが、電場に外から電圧その他の形でエネルギーが加えられると、電場の中にある分子、原子等が、ちょうど海の波のようにそれぞれの場所で僅かの電気エネルギー伝達運動を連続的に行なって、加えられたエネルギーを次々に他の分子や原子に伝えてゆくのであろう。
 このように考えると、皮膚に外から二つの電極を通して3Vの電圧をかけ、電気エネルギーを皮膚に負荷すると、この電気エネルギーは真皮結合織と礎質を電場とし、その中の分子、原子にそれぞれの場で電位的エネルギー伝達運動を生ぜしめ、加えられた電気エネルギーが次々と伝わり、一方から他方の電極に伝わるその速度は0.1~1マイクロ秒あるいはそれ以下の非常に速い速度である。しかし各イオン(各分子)の移動はNa+が毎秒0.00001~0.00007というように非常に遅いということであろう。
 さて次に、BPの速度と同じ速度で気エネルギーは経絡中(あるいは真皮結合織中)を走るのであろうか。陰経、陽経で流れの方向は違うのであろうか。これらの点を次の実験結果に基づいて考察してみよう。